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最新香りインタビュー
パルファムインタビュー
2014年8月5日

セルジュ・ルタンス レーヌ ドゥ ヴェール
鋭く美しい香り
香りは現実世界ではなく、心象風景を映す作品です。
その哲学を見事に香りのクリエーションに込めた香りが誕生しました。
孤高の哲学者、迷宮の世界に住む魔術師。セルジュ・ルタンスが紡ぐ香りには心奪われます。
ここ何年かローシリーズが続いていて、水がテーマになっていますがそれぞれ単なるそれこそ瑞々しいだけの香りではなく。セルジュ・ルタンスだけのローですね。
水のシリーズ第一弾「ロー セルジュ ルタンス」が発売された時、「なぜ今さ ら水なのか?」というお問い合わせをたくさんいただきました。セルジュ・ル タンスには「このクリエーションは過剰な香水の匂いに満ち溢れたこの世界に 対する反発だ」という強い意志があり、この香りをアンチパルファムと位置付 けました。ラグジュアリーの原点である“清潔さ”を表現した香りです。2作目 「ローフォアッド」は“そよ風が震えるように”冷たい水という意味で、乳香 をふんだんに使った神秘的、個性的な香りです。
今回2014年の最新作のレーヌ ドゥ ヴェールの香りも言葉を失うと言うのでしょうか、心の奥に響く香りで驚いています。
初めにこのフレグランスのキーワードを聞いて驚きました。“メタル”・・・。日本でもオーガニックブームですし、リラックスする、癒される香りを求める方が多い中で“メタル”とは何とアンチなことかと。ルタンスは私たちを、お花畑や宮殿にはいさせてくれず、一体何処へ連れて行こうとしているのでしょうか。「レーヌドゥヴェールは二つの相反するものが遭遇しながらも、お互いを補完している。」メタルとカシミア、鋭さと優しさ、を例に出し、自身の中のもう一人の自分との交差するストーリーを持っています。相反するから、異なるからこそ出会えるもう一人の自分と、ある瞬間にすれ違う。常に革新的な創作活動を続けるルタンスが、新しい次の世界を見せてくれているのだと思います。
矛盾するテクスチャーから想像する香りのコンセプトを見事に表現するセルジュ・ルタンスはやはり香りの魔術師ですね。故知れぬ痛みというかこころにかすかに引っかかる魅惑的で神秘的な部分を香りで表現しまうところがスゴイ!という他ありません。美しく響くネーミングも素晴らしいです。
マルチな才能を持つルタンスですが、最近は読書と物書きに集中しているようです。彼の詩はフランス人にさえ難解な文字の洪水。重複し反復しあう言葉、掛詞、ごろ合わせ・・・慎重に注意深く解読する際にはセンスも伴わないと紐解けない仕掛けです。いじわるですね。レーヌドゥヴェールは直訳するとガラスのウール。そして絶縁体という意味も持ち合わせます。 自身のフレグランスを「小説」と言い、香調名は物語のタイトル。ページを開いた(香りを付けた)瞬間から、その人と物語との永遠のストーリーが紡がれていくのだと。イマジネーションが広がりますね。
ガラスのウールというネーミングは難解で矛盾するような意味ですが、心の深層に響くのが本来の香りの姿で、心はそもそも矛盾するものなのでそういう意味で究極の美を求める仕事をするセルジュ・ルタンスらしいネーミングですね、今回のレーヌ ドゥ ベールの香水ボトルに描かれている書体も鋭角的でドキッとします。もちろん極限まで削ぎ落とされたボトルも・・・。
「レーヌドゥヴェール」はメタリックな自転車のハンドルやスポークがイメージされています。スポークとは車輪を支える放射線状に広がるメタル部分のことで、書体にもデザイン化されているのが解ります。ボトルもラベルも出来る限りシンプルにしたいと望むのは、付ける人たちにこの物語への余計な思い込みを与えないことへの配慮です。すべて同じボトルに、凝縮された物語が詰まっています。

町田淑江さん
(株)ザ・ギンザ 広報